課題と挑戦 狭いスペースで多くの糸を走らせる改良開発
ストッパー「N810004」は、織機や準備機などで使用される「糸切れ」を検知するための製品です。特に、多くの糸を同時に供給する現場において、限られたスペースの中で効率よく糸を走らせる場面で活用されています。
この製品の特長は、糸が切れた瞬間を検知し、それを電気信号として外部に伝えられる点にあります。糸が通っている通常時はガイドが持ち上がった状態を保ち、糸が切れるとガイドが下がる――この動きによって通電し、ランプの点灯などで異常を知らせる仕組みです。

このストッパー自体は以前から湯浅糸道工業の製品としてありましたが、今回の開発では「ガイド部品のピッチをより狭くしてほしい」というお客様からの要望が寄せられました。
背景にあったのは、すでに設備側で糸のピッチが決まっており、簡単には変更できないという現場の制約です。織機にかける前の準備工程では、限られたスペースの中で、できるだけ多くの糸を同時に走らせる必要があります。しかし従来のピッチ(14.5mm)では、流せる糸の本数に限界がありました。

そうした中で、「既存の条件を変えずに、より多くの糸を安定して走らせたい」という要望に応えるため、第一段階としてガイドのピッチをさらに狭小化することを目指した改良開発がスタートしました。
改良前の仕組み 通電バーとプレートで成立する糸切れ検知のメカニズム
このストッパーの中核となるのが、「糸切れセンサー」の機能です。糸が切れた瞬間を検知し、それを電気信号として外部へ伝える――その仕組みは、ガイドの上下の動きと内部の通電構造によって成り立っています。

内部には、電気を通すための「通電バー」が2本配置されており、その間に「通電プレート」が組み込まれています。
通常時は、糸がガイドを持ち上げているため、通電プレートは片側の通電バーにだけ接触している状態です。この状態では電気は流れません。
しかし、糸が切れるとガイドが下がり、それに連動して内部の通電プレートも動きます。するとプレートがもう一方の通電バーにも接触し、2本の通電バーにプレートが接触する状態になります。このとき初めて電気が流れ、外部へ信号が送られます。
つまり、「ガイドが下がる = 2本の通電バーにプレートが接触 = 通電する」というシンプルな仕組みによって、糸切れを検知しています。
開発の軌跡5STEP ストッパー「N810004」改良開発の軌跡 5つのステップ
STEP.1 部品を減らすという発想で構造を見直す
今回の改良開発では、糸のピッチが既に決まっていて変更出来ないお客様の要望に、柔軟に対応できるものを実現することが求められました。この開発を任されたのが、技術部の課員・Kです。まず着目したのは、製品の構造そのものでした。


従来の14.5mmピッチの構造では、ガイドの動きや通電機構を成立させるために、複数の部品が組み合わさる構成となっていました。そのため、ピッチを狭くするには「部品点数を減らし、構造をシンプルにすること」が必要だと考えました。
しかし、実際に部品数を減らす方向で試作を進めていくと、新たな課題が見えてきます。ガイドの動きが鈍くなったり、通電プレートの動作が安定しなかったりと、本来の機能に影響が出始めたのです。
そこで、単に部品を減らすのではなく、部品同士の接触面積を見直すなど、細かな調整を繰り返しながら、構造の成立条件を一つひとつ整理していくことになりました。
STEP.2 連結性と動作性を両立させる設計の難しさ
ガイド部品のピッチを狭くするうえで、もう一つ大きな条件がありました。それは、連結されたガイド部品同士が、しっかりと固定される構造であることです。
複数のガイドをつなぎ合わせた際に、わずかなズレやガタつきがあると、糸の走行や通電動作に影響が出てしまいます。そのため、組み合わさった状態で安定して保持される構造が求められました。
そこで検討されたのが、パーツ同士に段差を設け、かみ合うように固定する構造です。

さらに、パーツ同士がスムーズに組み合わさるように適切なクリアランスを確保しながら、同時にしっかりと固定される精度も求められました。隣り合う部品が無理なく組み付くこと。そして固定された状態でもガイドが正常に動き、通電機構が確実に働くこと。そのすべてを成立させる必要があったのです。
わずかな干渉やズレが動作不良につながる中で、細かな調整と試行錯誤を重ねながら、最適な構造を模索していきました。
STEP.3 3Dプリンター試作で検証した構造の成立性
これまでの検討内容をもとに、まずは3Dプリンターで試作品を製作しました。設計した構造が実際に成立するのかを確認するための重要なステップです。
しかし、いざパーツを連結してみると、部品同士のはめ合いが悪くスムーズに動作しないという課題がでてきました。そこで、クリアランスを見直すために、試作品を自ら削りながら微調整を繰り返していきます。


この試行錯誤の中で、「この部分は量産時に課題になる」というポイントも見えてきました。最終的に量産製造するための「金型製作」を見据えた、重要な気付きです。
そして調整を重ねた結果、パーツ同士がしっかり連結し、ガイドも問題なく動作する状態を確認。構造として成立する手応えをつかむことができました。
STEP.4 社内連携で進める金型製造工程
試作によって構造の成立性を確認できたことで、いよいよ最終工程である「金型製造」へと進みます。この工程が滞りなく進めば、薄型化したガイド製品の量産体制が整います。
社内一貫体制で進む金型製造
金型製造に進められると判断された時点から、技術部と他部署との連携が本格的に始まります。湯浅糸道工業では、樹脂製品であれば自社内に金型製造部門を持っており、設計から製造まで一貫して対応できる体制が整っています。

まず、3Dプリンターで最終決定した製品形状データを金型部門へ共有します。金型部門では、そのデータをもとに量産用の金型をCADで設計し、鋼材の加工へと進んでいきます。この過程では、製品設計を担う技術部から、構造の意図や重要なポイントを正確に伝えることが欠かせません。設計の狙いを共有しながら、各部門が連携して製造を進めていきます。
また、ガイドの曲げ加工についても、技術部が直接製造部の担当者へ依頼を行います。図面や指示書をもとに、現場で直接説明を行いながら、加工条件をすり合わせていきました。

一度きりの勝負となる金型製造
特に緊張感が高まるのが、金型部門へ製品データを引き渡す瞬間です。金型製造は、鋼材の調達や高精度な加工設備を用いるため、コストも工数も非常に大きな工程です。
もし設計にミスがあれば、完成した金型の修正は容易ではなく、場合によっては作り直しになることもあります。だからこそ、データを送る前の確認は、何度行ってもやりすぎることはありません。
一つひとつの確認を徹底しながら、量産に向けた最終工程へと進んでいきました。
STEP.5 要望に応える多様なピッチ対応の製品が完成
こうして、ピッチごとに最適化されたストッパー「F3050**」シリーズが完成しました。
図番は末尾の数字によってピッチの長さを示しており、F305006、F305008、F305010、F305012といったバリエーションがラインナップ。従来は14.5mmだったガイド部品のピッチに対し、新たに4mmと6mmのバリエーションを開発。これにより、より狭い間隔で糸を走らせることが可能になりました。

連結されたストッパー製品としては、安定して使用できる最小ピッチは6mmとなります。4mmピッチは、構造上は動作するものの、4ミリという間隔では隣り合うガイド同士が干渉してしまうため、そのままの連結では使用できません。
そこで、4mm部品を“カラー(間隔を調整する部品)”として組み合わせることで、8mmや10mmといったピッチにも対応できる構成を実現しました。例えば、4mm部品を2つ組み合わせて8mmピッチにしたり、6mmピッチに4mm部品を加えて10mmピッチにするなど、用途に応じた調整が可能です。

このように、4mmと6mmの部品を組み合わせることで、6mm・8mm・10mm・12mmといった複数のピッチに柔軟に対応。お客様ごとの設備や条件に合わせて、最適な構成を選べる製品へと進化しました。
改良後の仕組み 部品削減から生まれた新しい通電の仕組み
改良版のストッパーにおける通電の仕組みも、基本的な考え方は従来品と同様です。ガイドの上下動に連動して、内部の通電プレートが動き、2本の通電バーをつなぐことで通電します。
通常時は、通電プレートが2本の通電バーのうち1本に貫通する形で接触しており、この状態では電気は流れません。糸が切れるとガイドが下がり、それに連動して通電プレートが重力によって回転します。すると、もう1本の通電バーにも接触し、2本の通電バーがつながることで通電が発生します。

このように、「ガイドが下がる → プレートが回転する → 2本に接触する → 通電する」という流れで、糸切れを検知する仕組みになっています。
従来品との大きな違いは、通電プレートの動かし方にあります。従来品では、専用の軸(エキセンガイド止め)を中心にプレートを動かしていましたが、改良版では通電バー自体を軸として活用しています。


これにより、従来必要だった可動軸部品を削減し、部品点数の低減を実現。そして構造をシンプルにしながらも、確実に通電動作が行われる設計を実現しました。

技術者としての魅力 アイデアを形にする、その面白さとやりがい
ものづくりの面白さって、やっぱり「考えたことを形にできるところ」だと思います。
今回の開発も、限られたスペースや構造上の制約がある中で、「どうすれば成立するか」を考え続けるところから始まりました。簡単ではありませんが、その分、自分のアイデアが少しずつ形になっていく過程には、大きなやりがいがあります。
そして湯浅糸道工業には、そのアイデアを実際の製品として形にできる環境があります。設計だけで終わるのではなく、試作し、検証し、量産までつなげていける。この一連の流れに関われることが、技術者としての大きな魅力です。

実際に今回のストッパー改良も、お客様の現場で問題なく使われているという声をいただいています。自分が悩みながら考え抜いた構造が、現場で役に立ち、価値として評価される。さらにそれが会社の成果にもつながっていく。その実感を得られる仕事は、そう多くはないと思います。
ものづくりが好きで、「自分の考えを形にしたい」と思う方にとって、この仕事はきっと面白いはずです。ぜひ、そんな想いを持った皆さんと一緒に、新しいものづくりに挑戦できることを楽しみにしています。
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